なにごとも過去にこだわるのが人間の悪い習性。パンもまた、その来歴に分厚い味の降り積もる過去があるものです。
パン・ド・ミもバゲットも、カンパーニュも、そんな来歴には、ひとかたならぬ、言うに言われぬ過去があるのでしょう。
私の過去は聞かないで。
人の魅力もこの過去にあるわけですから、パンもまた。
ヌフのパンにもその制作過程ですでに膨大な過去を羽織っています。
「ミニヨン・リモン」
命名はシェフですが、成形はわたしの受け持ち。当店のパンはそれぞれの秋で、これはわたし、此れはあなたと担当が決まっています。
パン・ド・ミとバゲットだけは仲良く二人で成形しますがカンパーニュはシェフ、ボヘミアンマンゴーはわたし、フリュイもわたし。
エピ・ザ・ツイストはシェフ。最後の新作のパン・ペイザンはシェフ。そうそう、「ハイジの白パン」はシェフ、「クララの豆パン」は私。リュスティックは自分の持ち分が早く終わった者から手がけます。
こうして作ったパンは思えばそのほとんどがオリジナルで、二人でどんなパンを作ろうかと思案して、そもそもどこかで修行した経験がないのでどれも無手勝流。パン・ド・ミやバゲット、カンパーニュなどの王道作品はとある私たちの深く尊敬する先生のご本を穴が空くほど読み返して、先ずはそれを忠実に再現して、そこからシェフがその嗅覚でアレンジして(無手勝流ですが、)出来上がったパンです。
以前にもこのブログで書いたことがあるのですが、下手な師匠(嘘っぽいパン屋さん)のもとで間違ったパン作りを学ぶより断然正解です。ポワラーヌさんが言いました。パンは感性そのものだ。上手い下手は持って生まれた感性で決まる。
「絶対音感」というものがあります。おそらく、「絶対味覚」というものもあるのでしょう。
シェフは子供達が小さい頃からお菓子やケーキ作りが大好きで、その長い修行のおかげでパン作りの応用に天性の力を発揮したのでしょう。
ではわたしたちのパン作りで思い出深いパンはと言うと。まずはこれ。君よ知るや南の国、はい「ミニヨンリモン」です。なかなか形が安定しないパンでした。クリームチーズが生地の中で爆発しないようにおっかなびっくりの成形です。手のかかるパンでした。

次は、これ。

名付けて、「恋のフーガス」。このパンも作らなくなってから随分経ちます。このパンはシェフも私も作っていましたが、苦労のみ多かった不肖の息子でした。なんせこのパン作りに差し掛かる頃が開店間際で、またとっても成形に手間取るパンで、最後はオリーブオイルを塗って完成。なんだか戦場のメリークリスマス状態で作っていたのが懐かしい。
命名は秀逸でした。
そして最後の傑作が、ご存知??? 「パン・ペイザン」です。

このパンは生地が余ってシェフが私たちのお昼ご飯にと適当に考えてその場でちゃかちゃかと作り上げたのですが、焼きあがるとこんな美味しいパンはない。これは新作だ!と、気が早いのが私の取り柄。
「イモ・デ・ゴワス」「薔薇の名前」
ああ、そんな懐かしいパンのうち、23日は厳選して九つのパン。さて、何が飛び出すやら。乞うご期待!